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第百十五話

last update 公開日: 2026-07-19 16:01:12

百十五

 土曜日。ナベは母親に携帯電話の契約に行くとだけ言って出かけていった。彼女ができたということは言い出せず、これから伝えることもしない気がしていた。反応が読めない、というか反応すらせず流してほしかったが、それは無理なことだろう。サークル内でも付き合っていることは言わないと二人で話した。「どうしようか?」と裕子に尋ねられたナベは、「サークル内での振る舞いが挙動不審になる気がする」と伝え、そうすることに決めていた。そのときに裕子はもしかしたら公表したかったのかもしれないとも思ったが、あえて確認はしなかった。そのほうがナベにとって都合がよかった。

 九時半ころ、地下鉄大通駅の待ち合わせ場所である大型スクリーン前に到着した。早すぎたかもしれないが、待たせるよりよっぽどましだった。今日はナベの用事につきあわせているので、できるだけ不快にさせるような真似はしたくなかった。

「ナベー、待ったー?」

「ううんぜんぜん。俺もいま来たところだよ」

 などと使い古された会話をする。まだ十時前なので、謝る必要もない。演劇研究会での集

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    百五十一 明転すると、歴史調停局局長役の理恵が立っている。その向かいにはマーサがやはり直立不動で立っている。マーサは局長に向かって三歩近づき、足を揃えて気をつけの姿勢を取る。機敏に敬礼し、また気をつけの姿勢に戻る。「歴史調停局調停課調停士アキウミマーサは、本日付で歴史調停局調停課勤務を命ぜられました!」 マーサは一息で言うと、また敬礼する。「休め」 局長が静かに命令すると、マーサは敬礼を解いて足を肩幅に開き、休めの姿勢を取る。「我々、歴史調停局はタイムマシンの発明によって増加した歴史改変犯罪の解決のために発足した組織だ。たとえそれが正義に悖ることであったとしても歴史の改変を許すことがあってはならない。例えば、ユダヤ人の虐殺はわかりやすい悪行だが、だからといって過去に戻ってヒトラーを暗殺することは許されない。我々の使命は本来の歴史の保全だ」 局長はマーサとの距離を一歩の間合いまで詰め、ペンのようなものを差し出す。マーサがそれを受け取って上着の胸ポケットに差すと局長は再び話し出す。「これは強制的に個人の時間を止める携帯型時間停止端末だ。我々歴史調停局員にしか使用が許可されていない。局員の判断で使用が可能だが、使用者は代償を支払わなければならない。……それは、使用者の記憶だ。最新の記憶から失うように設計されているので、使用する時は同僚のフォローがもらえる場合に限定しておくように。何か質問はあるか?」「はい!端末を使うのはどういう場合ですか?」「過去を変えることができるのは、迷いのない本心からの行動だ。それによって過去が変えられそうになった時、他に手段がなければ使え」「はい!」「以上だ。下がっていい」「失礼します!」 マーサは反転して歩き、立ち止まって胸ポケットからペンを取り出して見つめる。舞台は一瞬の暗転後、マーサだけサスに照らされ、マーサは頭を押さえてふらふらと地面に手をついた。「マーサ!」 タクヤの声で舞台全体の照明が灯る。タクヤは手をついたマーサに駆け寄って目線を合わせる。「あれ?すい

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  • 僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 続編   登場人物

    ( )内はあだ名。渡辺浩二(ナベ) 主人公。大学一年生。松本雅人(ガジン) 大学一年生。橋本裕子(裕子) 大学一年生。池田理恵(理恵) 大学一年生。岡田瞳(瞳) 大学一年生。清水智子(みずとも) 大学一年生。中島麻美(麻美) 大学二年生。林由美(由美) 大学二年生。加藤俊輔(シュン) 大学四年生。中村雄介(ブラザー) 大学四年生。山本慎吾(ポリス) 大学四年生。

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     七月、初の期末試験が近づく。未知の専門科目に戸惑う僕に、先輩の久美子さんたちから「過去問のネットワーク」という大学特有の攻略法を伝授された。部室では就活スーツのポリスさんが人気漫画のセリフで「さらば」と去り、留年危機のブラザーさんや、夢を追うシュンさんの将来が語られるなど、四年の先輩たちの学生生活の終わりと現実が交錯していた。 試験本番、僕は過去問を頼りに論述問題に挑むが、唯一、数学だけは絶望的だった。最初から理解を諦め、授業中の「寝ていないふり」を極めていた僕は、白紙に近い答案を前に来年は先輩に話を聞いて選択する授業をきちんと考えて決めようと誓った。手応えのないまま「優・良・可・不可」

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